岐阜城織田信長居館の発掘調査 [発掘調査現説]

岐阜城の山麓にあった織田信長の居館跡の発掘調査現地説明会に参加しました。
岐阜城の山麓は通称「千畳敷」と云われて昔から御殿があったと言われていました。しかし、現状は公園となり、狭い数段の平坦地があるだけです。千畳敷の本格的な発掘調査は約20年ほど前で、その時には大きな石で通路を飾った虎口が発見されました。その後は平成19年から本格的な発掘調査が始まっていますが、信長居館の具体的な様相は不明のままです。
実はこの信長居館については、絵図や文書はありませんが、唯一フロイスの書簡にその様子が出てきており、これが唯一知ることができる資料です。以下はその一部です。

宮殿は非常に高いある山の麓にあり、その山頂に彼の主城があります。驚くベき大きさの裁断されない石の壁がそれを取り囲んでいます。第一の内庭には、劇とか公の祝祭を催すための素晴しい材木でできた劇場ふうの建物があり、その両側には、二本の大きい影を投ずる果樹があります。広い石段を登りますと、ゴアのサバヨのそれより大きい広間に入りますが、前廊と歩廊がついていて、そこから市の一部が望まれます。清々しさ、美しさ、清潔さにおいて、私はこの宮殿と比べられるものをみたことがありません。
宮殿の中には、技巧を凝らして丁寧に作られている部屋や廊下、前廊、厠が数多くあったと記憶しています。普段は誰も入ることなく、私たちと一緒に入った佐久間信盛殿、柴田勝家殿も宮殿内を見るのは初めてだったとおっしゃっていました。
一階は絵画と塗金した屏風で飾られた約二十の部屋があり、その部屋の周囲には、珍しい前廊が走っています。前廊の壁は、金地に中国や日本の物語の絵を描いたもので一面満されていました。
前廊の外には、 庭と称するきわめて新鮮な四つ五つの庭園があり、他の場所にも、宮殿の用に思いのまま使用できる泉があります。
二階さらに美麗な内装を施した婦人部屋があり、その周囲を取り囲む前廊は市(まち)の側にも山の側にも中国製の金襴の幕で覆われています。そこでは小鳥のあらゆる音楽が聞こえ、きわめて新鮮な水が満ちた他の池の中では鳥類のあらゆる美を見ることができます。
 三階は山と同じ高さで、 一種の茶室が付いた廊下があります。それは特に精選されたはなはだ静かな場所で、なんら人々の騒音や雑踏を見ることなく、 静寂で非常に優雅であります。三、四階の前廊からは全市を展望することができます。「完訳フロイス日本史2 織田信長篇2」中公文庫2000 より

これを素直に読むと信長の御殿は四階建の建物になります。千畳敷は非常に狭く、20もの部屋を持つ建物を想定することはできません。そこで、様々な復元案が出されています。四階の天守風の建物を想定した案、千畳敷の敷地を利用した階段状の建物の案などです。
ただ、フロイスは外国人なので日本の建物の描写は主観的なものになり、また、この文章自体も少し変な部分もあります。本来はポルトガル語?で書かれた原典に戻って見直すことも必要ではないでしょうか。1階、2階などの記述が原典ではどう書かれているか関心のあるところです。
発掘調査ではやはりこのフロイスの記述を念頭に置いて遺跡をみているようなので、どうしても結び付けたくなるようです。昨年の調査では、奥の段から出土した壁土について、京都の土倉などで茶室に使われていたとして、茶室の遺構のように説明していましたが、少し無理があるように感じました。税金を使い発掘調査をして市民に公表するため、記者発表ではどうしても目玉が欲しい気持ちはわかりますが・・。
今回も奥から平場から池と水溜遺構が見つかり、銀閣寺の奥の庭園に似ている点から、信長も室町将軍家の伝統や権威を尊重していたと発表していましたが、その池は非常に小規模で、奥の私的な空間の庭のような場所で、公的な場ではないように感じました。
当時の信長は尾張と美濃の二カ国の領主で一地方大名に過ぎません。どうしても安土城のような革新的なイメージがありますが、本来、御殿などの建物を作るときには、当時の標準的な作り方があり、信長にしてもそれに従って建物の配置をしたのではないかと思います。すなわち、当時の花の御所、それをモデルとしたような細川管領館、朝倉氏館や大内氏館、江馬氏などの建物と同様な物を築いたのではないでしょうか。そういう視点からフロイスの記述をもう一度見直す必要もあるのではないでしょうか。

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